建設業は
「デジタル化」によって
変わることができるのか?

大林組のシリコンバレーでの取り組みと、建設業の今後について議論しました。

OBAYASHI SVVL COO/CFO

佐藤寛人

OBAYASHI SVVL Development Manager

土屋貴史

大林組ではシリコンバレーに拠点「SVVL(Silicon Valley Ventures & Laboratory)」を持ち、現地のテック企業とともに、新たな「建設業のデジタルプロセス化」に取り組んでいます。その取り組みと、デジタル化によって建設業はどのように変わっていくかを議論しました。

─本日は大林組の「クミノナカ」から、SVVL(Silicon Valley Ventures & Laboratory)のお二人、佐藤寛人さんと土屋貴史さんに「Digitalized Obayashi(新たな競争領域、建設プロセスのデジタル化)」というテーマでお話しいただきます。

Digitalized Obayashiをめざす3つの柱

佐藤 「Digitalized Obayashi」という言葉に込めた思いとして、建設業の現在のプロセスをデジタル化した際、そこには新しい競争領域が生まれると考えています。そのDigitalized Construction Processをどこよりも早く大林組が実現することで、新たな競争領域で優位性を確立できるのではないかと、その時の未来の大林組の姿をイメージして「Digitalized Obayashi」と表現しています。

「Digitalized Obayashi」をめざして今やっていることは、大きく分けて3つの柱があります。

1つはスタートアップや現地研究機関との共同開発。これはPhase 1として2018年からやっています。メインのパートナーとなったのは、SRIという現地シリコンバレーで最大の研究機関です。

Phase 2として、2年目に我々がチャレンジしたのは、スタートアップへの出資とベンチャーキャピタルへの投資です。具体的にはこれまでに2つのベンチャーキャピタルと6つのスタートアップに出資をしています。こういう関係づくりをすることで、いわゆるシリコンバレーのConstruction Techの「エコシステム」の中で中心的な役割を担おうとしています。

Phase 3として、今年チャレンジしているのは、ビジネス創出(ビジネスデザイン)。Construction Techのプロジェクトを進めていく中で、「Productization」いわゆる製品化、量産化、そしてシリコンバレーで見つけたテクノロジー、サービスを日本で展開すること、「Commercialization」 に今年からチャレンジしています。

建設現場のイノベーションは“インターネット”+“デジタル”で起きる

佐藤 日本の建設産業の市場調査を見ると、過去5年間は景気がよかった。年平均プラス5.2%で伸びています。しかし、向こう5年間は2.2%まで下がるという、ちょっと残念な数字が出ています。

一方で、建設デジタル市場、建設プロセスをデジタル化するという新しいマーケットは大きく成長すると言われ、向こう5年間で10%から20%に伸びていくと予測されています。

2000年ごろに、世の中ではインターネット革命が起きて、ほかの産業の現場では軒並み1.5倍〜2倍ぐらい生産性が上がっているところ、建設現場では、日本もアメリカもほぼ横ばい、つまりインターネットでは建設現場の生産性は変われなかった。これを我々は恥ずかしい事実としてしっかり受け止めなければならないと思っています。

今回、“インターネット”+“デジタル”の組み合わせでイノベーションが起きるか、答えはイエスと言いたいです。

例えば、建設現場で資材を特定の場所に運ぶ、このプロセスを7つに分けてみます。

①作業の把握・指示 ②現場全体を把握する ③個別対象を認識する ④情報を引き出す・比較する ⑤作業内容を分析・最適化する ⑥作業(実行する) ⑦完了したかチェックする

たぶん今も、そして将来も、デジタル化が進んでも、①のやるべき作業を決めるところ、⑦完了したかをチェックするところ、これは人間がやらなければいけないと思っています。

インターネットが変えてくれたのは、④の情報を引き出して比較する、統合・比較というところ。そこだけでした。

デジタルの最新技術では、②現場全体を把握したり、③個別対象を認識したりができる。⑤作業内容を分析・最適化するところは、AIでできる。そして⑥の作業は、ロボットを使ってできる。②〜⑥まで、デジタル技術とインターネットによってつなげ、生産性の効率化が可能になる、と仮説を立てています。

Construction Techという市場の創造の要素としては3つあります。

一つはデジタルテクノロジーが産声を上げているこの時機。そして、さまざまなリソースが集まっているこのシリコンバレー。そして、まだまだ伸び代がある建設業、この3つの掛け合わせで、Construction Techという新しい市場が生まれるんじゃないか、と我々は信じています。

シリコンバレーの入場資格は「デザイン思考」

佐藤 大林組は、実は40年前からサンフランシスコに建設事業の拠点を構えています。ただし、シリコンバレーの企業と大林組は、私が赴任した2011年当時はほとんど縁がありませんでした。一緒にコラボレーションする文化・土壌も、そのための組織も、経験のある人もなく、シリコンバレーとの付き合い方が分からない、というのが本音でした。

大林組の「ない」を「ある」に変えるチャレンジをしなければならない。言い訳なしにアクション取らなければいけないな、と思いながらその機会を探していました。

「佐藤さん、シリコンバレーで求められるスキルってなんだか分かりますか?シリコンバレーには入場資格があるんですよ。」と私に教えてくれたのは、メンターの一人である、シリコンバレーで最大の外国企業、ドイツの会社SAPの小松原威氏です。

「シリコンバレーの入場資格、それはね、デザイン思考です」と。当時(2015年ごろ)の私には、クエスチョンマークが浮かびました。それから勉強を始めました。

デザイン思考というのは、例えば一つの問題があったときに、すぐに回答を出すのではなく、まず相手の問題に共感し、相手の問題を定義する。そして問題解決を発想し、そのための試作品を作り、テストを繰り返す。小さい失敗を繰り返しながら短いサイクルでくるくる回し続ける、これがシリコンバレーのものの作り方。これをデザイン思考と呼んでいます。

「あなたの会社でデザイン思考ができますか?」というのが小松原さんの質問でした。私は建設業、建設現場では受け入れられないよなぁ、と思ったんです。

シリコンバレーの企業と建設現場をつなぐ「中間ギア」をつくる

佐藤 こんなイメージが頭に浮かびました。シリコンバレーの企業は、高速の小さなギア。すぐ止まって、またちょっと調整してくるくる回る。一方で、建設現場のイメージは巨大なギア。2、3年の大きなプロジェクトで巨額のお金が動きますが、1度動き出したら基本的には止められない。同じペースで回り続ける。

シリコンバレーの企業は、「失敗で育む文化」。一方で建設現場は、やはり、できれば「失敗を避けたい文化」。こういう文化の違いがあり、そのギャップからイノベーションがもたらされなかった原因なんじゃないかな、と。

つまり、この間に「中間ギア」、つまり現場を再現したようなテストができる環境を用意して、この小さいギアと中間ギアの間でテストを10回、15回と繰り返して、それで成功したら大きなギアにつなげてみる、つまり本当の現場でテストしてみる、という発想になった。これがデザイン思考を学んで思いついた発想です。

シリコンバレーに存在する「コミュニティの壁」

佐藤 当時(2016年ごろ)、有能なスタートアップにとってConstruction Tech、つまり建設産業は魅力的ではありませんでした。何がペイン(問題点)かが分からず、投資資金も期待できない。自動車産業の自律運転や、倉庫の自動搬送、小売の在庫管理とか、ほかにも彼らスタートアップのテクノロジー、ROBOTICSやAI、3D PrintingやVISIONテクノロジー、IOT、そういったものを適用する産業・市場はいっぱいあって、建設業にそのテクノロジーを持ってきてくれるスタートアップはいませんでした。

米国の建設会社は技術開発をしませんが、日本の建設会社は技術開発をしている。ただ、最新テクノロジー(Welding Robot、Module Structure、Structural 3D Printing)はあっても研究開発の段階。実際の作業はまだまだ人の手で行っている。シリコンバレーの企業がこの建設業界の現状をテクノロジーで改善してくれないかなと思ったんです。現場の仮囲いを取っ払って、建設現場ってまだまだすごくマニュアルで、この中にはイノベーションの余地、つまり宝の山があるかもしれないよ、と教えてあげれば変わるんじゃないか。

じゃあどういう風に持っていったらいいか。

シリコンバレーにはコミュニティの壁があります。一つはCommunity for Innovation、いわゆる実戦、共同開発、直接投資の世界。でもそこに入るのはローカルのベンチャーキャピタルと、GoogleやAppleなどから飛び出した有能なエンジニアがつくったスタートアップだけ。一方で日本企業が入るのはCommunity for survey。企業訪問や調査、投資ノウハウの勉強のコミュニティ。この2つのコミュニティの間には目に見えない壁があって、ぜんぜん情報の質が違います。我々が挑戦するのであれば、大林組は初めからCommunity for Innovationの世界にいかなければならない。ローカルのベンチャーキャピタルや、現地のスタートアップと直接話ができるように、何か手土産というか、魅力的な提案や武器がないと相手にしてくれないな、じゃあその武器ってなんだろうと考え始めました。

大林組の「武器」とは?

佐藤 武器、それは実はあったんです。大林組には。

一つは、アメリカのゼネコンにはない技術研究所。建設分野の研究員がいて、予算もついている。そして、2つ目の要素としては、日本の他のゼネコンにはないアメリカに子会社があること。これがなぜ強いかというと、スタートアップと一緒に作った試作品をテストする建設現場が米国内にあること。データコレクションができること、そして米国の建設現場が顧客になる可能性があることが、大林組の非常に大きな強みです。3つ目が、経験です。外国企業でありながら、40年間にわたってアメリカで建設ビジネスを続けてきたこと。この姿勢は絶対評価されるはずだと。

日米の建設会社がそれぞれ持っていないところを我々はすべて持っている。シリコンバレーでオンリーワンだと。そこに、シリコンバレーの最新技術を建設現場に取り込むための仕組み(先ほどの話でいうところの中間ギア)を用意すれば、これはスタートアップにとって魅力ではないか、我々大林組というのはすごくユニークな存在なのではないか、と自信を持てるようになりました。

Obayashi Challenge のロードマップ

佐藤 それを最初にアピールしたのが、SVVLをオープンしてすぐに開催した2017年のObayashi Challengeというイベントです。有能なスタートアップや研究機関を15チーム集め、その内から7チームを選んで共同開発が始まりました。

Obayashi Challengeは、ロードマップを持っています。まず技術探索をして有能なスタートアップとコンセプト実証をつくっていく。そして出来上がったものを社内向けに試作・検証し、いくつかの現場でできるように製品化していく。それが良ければ、建設業界に向けて商品として売っていく

まず2017年にやったのが、技術・アイデアのコンペティション。

続いて2018年にはStrategic Partner を探しました。

ソフトバンクの孫さんが2000年に出した本で「インターネットという無人島で宝探しをするために、コンパスと地図を手に入れた」と書いています。世界最大のIT出版社であるジフデービスを買い、IT展示会会社であるコムデックスを買ったことをこう表現しているんですね。では我々にとってのコンパスと地図とは何か。そこで見つけたのがConstruction Tech特化型のベンチャーキャピタル、これはアメリカでも2つしかなく、一つがシリコンバレーに拠点を持っているBRICK & MORTAR、もう一つがボストンを拠点にしているBUILDING VENTURES。この2つのベンチャーキャピタルに出資させてもらいました。彼らは毎月200社以上のスタートアップとのミーティングを繰り返しているので、その中で我々の要望を彼らに伝えておくと「大林にはこの会社がいいんじゃないか」と随時紹介を受けるといったように、非常に効率のいい情報ソースが手に入りました。もう一つはSRI。SRIとは共同研究開発をしてきたんですが、その先にめざす製品化や商品化という大林組にとっては未知の領域のところまで彼らのシリコンバレーのネットワークを利用させてもらう戦略的パートナーシップを締結しました。

そして2019年の12月にチャレンジしたのがBusiness Partner 探し。大企業と一緒にスタートアップを育てるという取り組みです。Obayashi Challenge 2019は、2日間にわたって13プログラム、80人の出席者の中で行いました。

うれしいニュースとして、2019年の夏、BuiltWorldsというConstruction Techの米国最大のメディアが毎年発表するVenture Investors 50 listの中で、そのうちの20社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)部門の中に大林組が選ばれました。これによって、Construction Techの創出プレーヤーとして認めてもらえたかなと思っています。

Take Action!

土屋 では続きまして実際のプロジェクトのご紹介をさせていただきたいと思います。プロジェクトとしては現在10ぐらいの共同開発、ビジネス化のプロジェクトと、年に6〜10ぐらいの出資の案件を扱っています。その中でも今日は3つ、ご紹介したいと思います。

特殊な素材を使った3Dプリンティング技術

土屋 まず一つ目が、特殊な素材を使った3Dプリンティングの会社です。大きな技術的な強みが3つあって、一つ目は、彼ら自身で材料を開発することができること。2つ目は形状を最適化するソフトウェア。3つ目は、独自の6軸ロボットを制御する技術です。

今、彼らはクラウドファンディングサイトで自転車のプロダクトを売り始めました。特殊な素材なので普通はあるはずの構造部材がなくても成立するというとてもユニークな形状です。目標金額を1日で達成してしまって、今後どこまで増えるか楽しみなところです。

この会社と何をしたいかというと、当然建築に持っていきたいと思っています。特殊な素材のユニークな軽い薄い素材で例えば美しくデコラティブな階段を作るというようなコンセプトを挙げています。実現するためには技術的な課題があり、それを乗り越えるために共同開発を進めています。

360度カメラによる現場デジタル化

土屋 続いて2つ目はSTRUCTIONSITEという360度カメラによる現場デジタル化のツールです。360度の画像を使って、現場のGoogleストリートビューのようなものを簡単に作ることができます。使い方は非常に簡単で、図面をアップロードしてクリックし、その箇所の写真を撮ると、そこに貼り付けられるという、極めてシンプルなものです。

その写真の上でチャットで指示を出したり、あるいは違う時系列で撮ってやると、過去と今を比べたりができます。「ボードの裏側どうなっていたかな」というときなど、こうやって2枚を比較すればここに管が通っていたということをすぐに判断できます。

また、360度の写真のいいところは空間を一発で撮ってしまうこと。普通の写真は空間の一部を切り取るので撮り損ねがありますが、360度ではそれが極めて少なくなります。

とはいえ各現場で写真を撮ってまわるのが大変だという場合には、動画を応用した機能があります。これは動画を撮りながら現場を歩けば全部そこから自動で写真を拾ってくれる機能です。さらに、画像の差分によって、どういう道を歩いたかというのを計算して図面上で貼りつけ、状況を記録・分析することもできます。今、何パーセントぐらい仕事が終わっているかという出来高を自動で計算することができます。

このSTRUCTIONSITE を大林組のビジネスにつなげるため、大林組のグループ会社であるオーク情報システムと、株式会社チェンジ、この2社に日本の総代理店になってもらい、日本の現場にこのサービスの提供を始めています。まずは日本ですが、シンガポールや台湾とも話を進めてます。非常にありがたいことに評判が良く、同業他社からも引き合いがきていると聞いています。

画像・動画データAI

土屋 3つ目はSmartvid.ioという、建設向けの画像や動画データのAIです。Googleができるでしょ、とおっしゃる方がいると思いますが、この会社は建設業に特化しています。こちらが「鉄筋」というワードで検索した結果ですが、Googleで検索してもこれだけ生々しい鉄筋ばかりの結果にはなりません。このように、建設業に特化したワードを検索することに力を持っている会社です。ほかに安全器具の検索も強く、ヘルメット、グローブ、メガネ、ハイビズと言われる反射板のついているベスト、これらを全部検索することができます。また、水たまりや部屋が散らかっているなどの清掃に関するところや、高いところに人がいるといったことも検索できます。

この技術を使って今、実験を行っています。動画を撮影し、そこから重機と人を検出してその距離が分かります。こういったデータをダッシュボード化し、ヒートマップや、時系列の変化をつくることができます。

このSmartvid.ioは画像を処理する会社、先ほどのSTRUCTIONSITEは画像を集める会社です。なのでこの2つをつなげばいいんじゃない?と思った方、ご名答です。我々もそれを考えて、今実証中ですので、近い将来お見せすることができればなと思います。

以上が3つのプロジェクトでした。残りの時間を使いまして、最後、我々が今後どういうところへ向かっていくかというお話をさせていただきたいと思います。

Googleが建設会社をつくったらどうなるか?

土屋 こういった話をするとき、よく我々は最初に、もしGoogleが建設会社をつくったらどうなるか考えてみよう、というところから始めます。Googleならきっと、今持っている大林組のバリューチェーンと違うやり方をするはずです。

建設業界に破壊的イノベーションをもたらすKaterra

(※本座談会収録後の2021年6月、Katerraの破産が報じられた。)

土屋 それに近い会社がいくつか出てきていまして、その代表格がKaterraです。建設業界に破壊的イノベーションをもたらすということを自分たちで言い切っている会社で、安い木造住宅を速くつくる、具体的には工程を15ヵ月から4ヵ月に短縮するということをめざしてやっています。この会社の強みは大きく3つありまして、一つは工場生産をするということ。それだけならほかもやっていますが、彼らはフラットパックといって、ちょうどIKEAの家具のように、狭い箱の中に詰め込んですごい輸送効率で運び、現場で組み立てます。さらにすごいのは、そのサプライチェーンの管理をすべてソフトウェアでやっているということです。これによってものすごい効率を実現しています。3番目、構造体としてCLT(Cross Luminated Timber)というものを採用しています。この3つで差別化をしています。

我々がシナリオマップと呼んでいるもので考えるとこうなります。横軸左がカスタマイズ化、右が標準化。縦軸下がBIM(Building Information Modeling)を図面として使う状態、上がデジタルプラットフォームとして使う状態。そうすると、大林組やほとんどのゼネコンは左下にいる状態です。ハウスメーカーは右下、モジュール化はしているけどBIMは図面として使っている状態、今ご紹介したKaterraは右上で、BIMをデータベースとして使って、非常に頑張っている。

Construction + Manufacturing = “Constructuring”

土屋 大林組はどう進むのか。生産性の向上をめざしてとにかくデジタル化をしていくという流れが一つあります。ですが、我々がシリコンバレーにいて感じるのはきっとその先にもう一つ違う世界があるよね、ということ。それを我々はMass-Customized Construction(準標準化)と呼んでいて、ある程度標準化をし、その上でさらに自由な設計ができるという世界がきっとあって、これからの建設会社はきっとそこに向かっていかないといけない、と思っています。

これを他の言葉で言うと、Constructionと、同じものを大量生産する製造業、この2つがどんどん近づいて、新たな業界、Constructuringと我々が呼ぶトレンドが今出てきています。

老舗のプレファブ企業もすごく頑張っています。一つご紹介したいのはClark Pacificという、プレファブ、プレキャストのコンクリートの会社で、Appleのスペースシップの躯体工事も請け負いました。実はアメリカでは立体駐車場はほとんどプレキャストのコンクリートでつくられています。この会社は自分が持っている立体駐車場のモジュールを全部ソフトウェアに突っ込んで、駐車の数ですとか1階の高さ、そういった基本的なパラメータを入れると工期やコストを全部自動で計算してくれるというソフトを作り上げ、実際にサービス化しています。立体駐車場は簡単だから、という話もありますが、実は今彼らが取り組んでいるのは寮(ドミトリー)でして、その次はさらにいろんなことができそうです。老舗の企業も、シリコンバレーでは非常に頑張っています。

以上、Digitalized Obayashiを実現するために、ということで我々の活動を紹介させていただきました。

シリコンバレーの空気感は?

─シリコンバレーって、アメリカの中ではどんな空気感なのでしょうか。未だに先進的な、というイメージはアメリカの中でもあるのでしょうか。

佐藤 「速くて、熱くて、高い」。競争が激しいという言い方になるのかな。

シリコンバレーのベンチャーの寿命って、1年しかないんです。1年経つと、その会社はマイルストーンを達成しないと資金ショートして潰れてしまいます。今の社員で1年後にゴールを達成できる分しかベンチャーキャピタリストはお金をあげません。日本のベンチャーは、4億とか5億とか平気で集めるので2〜3年ぐらいいける。そうすると、スピード感ってやっぱり違いますよね。

─アメリカの中で建築・建設というのはホットな業界なのでしょうか?

佐藤 コンストラクション×テクノロジーという意味では、急激にホットになってきていると思います。車などの他の業界では勝ち組が見えてきてしまった中で、新しいグリーンフィールド、フロンティアを探すと、「建設ってまだ俺たちのテクノロジーを活かせる部分があるんじゃない」ということで、この2年ぐらいで急激にConstruction Tech企業が増えてきています。

シリコンバレーにおける、日本企業は?

─シリコンバレーの中であまり日本企業がうまくいっている話を聞きませんが、その理由や、OBAYASHI SVVLが差別化できているポイントを教えてもらえますか。

佐藤 日本企業がシリコンバレーで苦戦している典型例は、「Lビザ」という3年で終わるビザで駐在員をぐるぐる回していること。3年ぐらい経って自分がやりたいことが見えてきたときに担当が変わる。これを繰り返しているのが日本企業の最大の弱点です。3年で戻ってこいと言われていたら、私もできていなかったと思います。

土屋 スピードについていくのが非常に辛いこともあると思います。「東京に持ち帰ってから検討します」とやっていると相手にされない。こちらでこういう提案をして、向こうがYESならGOが出せるというところまで詰めて、我々は持っていくようにしています。その社内コンセンサスを取ることに苦労している会社が多いように思います。

─日本の大手ゼネコンのシリコンバレーへの進出度はどうでしょうか?

佐藤 先ほどのコミュニティの壁でいうと、他社はまだ、Community for survey でとどまっている状態だと考えています。情報を取る意味では大林組はリードしています。ただ、2年前と違うのは、情報が一般化するのはすごく速くて、我々がベンチャーキャピタルから情報をもらった1〜2ヵ月後にはそれがテックイベントで共有化されてしまいます。そのアドバンテージを活かすために1〜2ヵ月でアプローチして、決めるものは決めてしまうということがさらに大事になっています。

─先ほどの歯車の話だと、実際にOBAYASHI SVVLが持っているラボでプロトタイプの試験をできることが重要なのかなと思いました。実際にラボを使ってくださったスタートアップはどういう印象や、期待を持たれているんでしょうか。

古賀 私はOBAYASHI SVVLのモックアップ工場で、現地スタートアップと3日間、実験を行いましたが、「日本企業でこんなラボを持っているところはもちろん知らないし、他の国でもなかなかない」と言ってもらいました。やはりスピード感がすごく大事で、日本に持ち帰るのではなくシリコンバレーでその場で実験してその場で結果を出せるというのは、すごくありがたい環境です。

佐藤 日本企業が苦戦する例に話を戻すと、「情報をなんでもかんでもすべて東京に投げてしまう」ということがあります。年間で何百社にアプローチしました、そのうち何社を紹介しました、レポートを書きました、こういうKPIを立てている日本企業がすごく多いんです。それって完全に見誤っていて、現地スタートアップからすると「もう訪問してくるな」となります。1年しか寿命がないスタートアップにとって、挨拶や事業紹介程度のミーティングに1時間も取られるなんて、日本の大企業と時間の感覚が全然違うんですね。

我々は東京に投げる前に実験できる環境がある。我々が検証したデータを東京に渡して、まとめて訪問する、そういう形ができています。

土屋 OBAYASHI SVVLと東京とでは、いろいろなプロジェクトで毎日3〜4時間の会議をし、常に同じ情報を持てるようにしています。すごく手間もかかるんですけど、それをやらないとこの仕組みはうまくいかないだろうなと思います。

プロジェクトの全体コンセプトは?

─後半、さまざまなプロジェクトをご紹介いただきましたが、全体のコンセプトはありますか?

土屋 車の業界でCASEっていう言葉がありますよね。我々はそれの建設版として、MACROと呼んでいます。Material、新しい素材、Autonomous、自動設計や自律ロボット、Configurationいわゆる標準化、Reality Capture、現場を瞬時にデジタル化してデータにする、Off-Site Construction、現場で標準化するのではなくて工場で作ったものを使う、それぞれの頭文字をとってMACROです。

─この中には我々ゼネコンの技術である 設計も施工もすべて含まれている気がして、これからどういった技術を使ってできるかというのがすごく楽しみになるコンセプトですね。大変刺激になるお話をありがとうございました。

PROFILE

OBAYASHI SVVL COO/CFO

佐藤寛人

1994年に大林組に入社。IT戦略企画室にて社内業務フロー改革、社内ベンチャー制度で新会社の立ち上げ・事業化などを経験。米国でのMBA留学を経て、北米事業の再構築、米国企業の買収などを行う。2016年12月にシリコンバレーのテクノロジーを建設業に取り込むための拠点としてSilicon Valley Ventures & Laboratoryを提案。2017年10月にカリフォルニア州サンカルロスに拠点を開き活動を本格始動。現在、米国子会社と一体となって、シリコンバレーにおけるConstruction Techのコミュニティ形成を図る。

OBAYASHI SVVL Development Manager

土屋貴史

2008年に大林組に入社。専門は熱流体。環境・エネルギーシミュレーションに関する設計・現場支援に従事。米国でのMBA留学を経て、米国子会社のWebcorに出向しPre Construction業務を経験。Silicon Valley Ventures& Laboratoriesの初期から活動に参加し、シリコンバレーを中心としてスタートアップ、研究機関と協業を行っている。